
| 名称 | 天沼矛(アメノヌボコ) 天之瓊矛(あめのぬぼこ) |
|---|---|
| 神話体系 | 日本神話(国生み神話) |
| 所有者 | イザナギ・イザナミ |
| 製作者 | 別天津神(ことあまつかみ)などの先輩神 |
| 形状 | 宝石(玉)で飾られた巨大な矛(槍) |
| 主な能力 | 天地創造(国生み) 混沌を固める |
天沼矛(アメノヌボコ)は日本神話に出てくるイザナギ・イザナミの武器です。
まい天沼矛(アメノヌボコ)は、日本列島そのものを作り出した「天地開闢(てんちかいびゃく)の神具」です
三種の神器やスサノオの剣よりもはるか昔、まだ地上世界が存在せず、海がドロドロの脂のように漂っていた頃の話。
イザナギとイザナミという二柱の神が手を取り合い、世界を創造するために振るった天沼矛(アメノヌボコ)は、破壊のための武器ではなく「生命と大地を生み出す聖なる道具」でした。
有名な擬音「こおろこおろ」と共に語られる、日本神話の原点のアイテムについて解説します。
天沼矛(アメノヌボコ)誕生秘話


MET JIB28 005 crd.llections/57561(1884年)
天沼矛(アメノヌボコ)が登場するのは神話の冒頭、まさに世界が始まろうとする時です。
まだ「鍛冶の神(イシコリドメなど)」すら生まれていない時代であるため、誰が作ったのか明確な記述はありません。
しかし『古事記』には「天つ神(あまつかみ)諸(もろもろ)の命(みこと)以て、沼矛(ぬぼこ)を二柱の神に賜ひて…」とあります。
つまり、イザナギ・イザナミよりさらに高位の存在である別天津神(ことあまつかみ)などの原初の神々が、世界を作るための権限(ツール)として用意し、二人に授けた「概念的な神具」であると考えられます。



ちなみに、名前にある「沼(ぬ)」とは古代語で「玉(たま=宝石)」を意味します
つまり、泥沼の矛ではなく「美しい宝石で飾り付けられた神聖な矛」という意味の名を持っています。
似て非なる「天逆鉾(アマノサカホコ)」


Amenosakahoko.jpg by Yanajin, CC BY-SA 3.0
天沼矛(アメノヌボコ)とよく混同されるのが、現在も宮崎県の高千穂峰(たかちほのみね)の山頂に突き刺さっている「天逆鉾(アマノサカホコ)」です。
名前がよく似ていますが、神話の記述上は別物です。
- 天沼矛(アメノヌボコ)
イザナギ達が「国を作る(海をかき混ぜる)」時に使った矛 - 天逆鉾(アマノサカホコ)
ずっと後の時代、ニニギノミコトが「国を平定した証」として突き立てたとされる矛
(※坂本龍馬が引っこ抜いたことで有名)
ただし、古くから「国を作った天沼矛が、そのまま地上に残って天逆鉾になったのではないか?」と同一視する説もあり、ロマンあふれる伝説となっています。
天沼矛(アメノヌボコ)の能力


天沼矛(アメノヌボコ)は、単なる物理攻撃用の武器とは一線を画す、「世界改変能力」というスケールの大きい能力を持っています。
武器としての天沼矛(アメノヌボコ)
天沼矛(アメノヌボコ)は神話では「調理器具(泡立て器)」のように使われましたが、現代的な視点で解釈すると「世界改変能力」そのものです。
液体の海を個体の陸地に変える物理法則無視のパワーは、まさに「天地創造(テラフォーミング)」の力。
もし戦闘に使われたとすれば、物質のあり方を根本から変えたり、空間そのものをかき混ぜて破壊したりする、最強クラスの武器として描写されることが多いです。
天沼矛(アメノヌボコ)が剣ではない理由


Izanami and Izanagi create the 1st Japanese isles, Kobayashi Eitaku MFA 1880s.(1880年)
日本神話の重要アイテムは「剣(草薙の剣など)」が多いですが、なぜ国作りだけは「矛(槍)」なのでしょうか。
これには道具としての機能的な理由が考えられます。
- 剣(つるぎ)
「切る=分ける」道具
敵を倒したり、審判を下すのに向く - 矛(ほこ)
「突く」だけでなく「かき混ぜる」動作ができる道具
男女の神が協力して国を作るには何かを切り裂く剣よりも、2つの力を合わせて混沌を練り上げ、結合させる「矛」が相応しかったのです。
天沼矛(アメノヌボコ)は、破壊ではなく「結合と誕生」を象徴するアイテムと言えます。
天沼矛(アメノヌボコ)の所有者はイザナギ・イザナミ


Nishikawa Sukenobu – The God Izanagi and Goddess Izanami – 2015.300.115 – Metropolitan Museum of Art.(1700年)
天沼矛(アメノヌボコ)の所有者は日本神話における最初の夫婦神、イザナギ(男神)とイザナミ(女神)です。
彼らは「神世七代(かみよななよ)」の最後に生まれた神々であり、日本の国土を生み、さらにアマテラス、ツクヨミ、スサノオといった主要な神々を生み出した「万物の親」です。
天沼矛(アメノヌボコ)は、彼らがまだ若々しい新婚の時期に共同作業を行うための象徴として授けられました。
イザナギとイザナミは天沼矛(アメノヌボコ)を使って日本列島を生み出し、たくさんの神々を産みましたが、その幸せな時間は長くは続きませんでした。
イザナミの死と永遠の決別・呪い


Green willow and other Japanese fairy tales (1910) (14593788578).(1910年)
国生みを終えた後は神生み(神様を産むこと)を続けていたイザナミですが、火の神カグツチを産んだ際、陰部に大火傷を負ってしまいます。
その傷が原因で病に伏せったイザナミはそのまま死んでしまい、黄泉の国(死者の世界)へと旅立ちました。



これが世界で初めての「死」でした
愛する妻を忘れられないイザナギは、彼女を連れ戻すために黄泉の国へ向かいます。
扉越しに再会したイザナミは「黄泉の神と相談してきますから、決して私の姿を見ないでください」と言い残して奥へ入りました。
しかし待ちきれなくなったイザナギは約束を破り、櫛に火を灯して中を覗いてしまいます。
そこでイザナギが見たのはウジが湧き、8つの雷神が体にまとわりついた、変わり果てたイザナミの腐乱死体でした。
恐怖して逃げ出したイザナギに対し、恥をかかされたイザナミは激怒し「よくも私に恥をかかせたな!」と恐ろしい形相で追いかけました。
命からがら逃げ延びたイザナギは、黄泉の国の入り口(黄泉比良坂)を巨大な岩(千引の石)で塞ぎ、二人は岩越しに永遠の別れを告げました。


Yomotsu Hirasaka.JPG by ChiefHira, CC BY-SA 3.0
- イザナミ(死の神)
「愛しい夫よ、こんなことをするなら、私はお前の国の人間を1日に1000人殺そう」 - イザナギ(生の神)
「愛しい妻よ、それなら私は、1日に1500人の子供が生まれるように産屋を建てよう」



イザナギは男神で、自分では出産できないことから「産屋を建てる=生まれる場所を作る」と言ったと言われています
こうして、二人は「創造の夫婦」から「生と死を司る別々の神」へと分かれました。
天沼矛(アメノヌボコ)による輝かしい「国生み」の裏には、このような悲しい愛憎劇が隠されているのです。
天沼矛(アメノヌボコ)にまつわる神話


Nihongi by Aston djvu 041.(1896年)
天沼矛(アメノヌボコ)のハイライトは、なんといっても「オノゴロ島」の誕生シーンです。
まだ地上世界が脂(あぶら)のようにドロドロと漂っていた頃、高天原の神々はイザナギとイザナミに天沼矛(アメノヌボコ)を授け、「この漂っている国を固めて完成させなさい」と命令します。
二人は天と地をつなぐ「天の浮橋(あめのうきはし)」の上に立ちました。
そして二人は天沼矛の切っ先をドロドロの海に突き刺し、「こおろこおろ」という音を立てて力いっぱいかき混ぜました。
十分に混ざったところで矛を引き上げると、切っ先から塩水が「ポタポタ」と滴り落ち、ひとつの島になりました。



これが最初の島、「淤能碁呂島(オノゴロ島)」です
現在の淡路島の南に浮かぶ沼島(ぬしま)が最有力候補とされています


Kamitategamiiwa.jpg by Pinqui, CC BY-SA 3.0
二人はこの島に降り立ち、巨大な柱(天の御柱)を立てて結婚の儀式を行い、そこから次々と日本列島を生み出していきました。
天沼矛(アメノヌボコ)が現代作品に与える影響


天沼矛(アメノヌボコ)は、現代作品において「世界を創る(あるいは作り変える)最強の武器」として、ラスボス級のキャラクターが持つことが多いです。
登場作品例
- 『NARUTO -ナルト-』
うちはオビトが十尾の人柱力となった際に使う「ぬぼこの剣」
六道仙人が世界を創ったとされる剣であり、DNAの二重らせんのような形状
「心によって強さが変わる最強の剣」として描かれた - 『ペルソナ4』
主人公の初期ペルソナが「イザナギ」であり、手に持っている武器が天沼矛をモチーフにしたもの
(進化すると「伊邪那岐大神」となり、さらに神々しい矛になる) - 『モンスターストライク(モンスト)』
キャラクターとして 「天沼矛」 がそのまま名前のモンスターとして登場



天沼矛(アメノヌボコ)は、日本のファンタジー作品において「創世記の力」を表す際の究極のモチーフとして愛され続けています








