
| 名称 | 生太刀・生弓矢(いくたち・いくゆみや) 生大刀(いくたち) |
|---|---|
| 神話体系 | 日本神話(記紀神話) |
| 所有者 | スサノオ → オオクニヌシ |
| 製作者 | 不明 |
| 形状 | 生太刀:豪華な装飾の直刀(推測) 生弓矢:長大な和弓(推測) |
| 主な能力 | 葦原中国を平定した圧倒的な活力と支配力 |
生太刀・生弓矢(いくたち・いくゆみや)は日本神話に出てくるオオクニヌシの武器です。
日本神話において、英雄・大国主神(オオクニヌシノカミ)が兄弟神たちとの戦いに勝利し、葦原中国(あしはらのなかつくに)の王となる決定打となったのが、生太刀(いくたち)と生弓矢(いくゆみや)です。
これらは破壊のための武器ではなく、その名の通り「生(活力)」を司り、国を平定して繁栄させるための神具として描かれています。
スサノオからオオクニヌシへと継承された、日本神話における「エクスカリバー」のような王権授与の象徴について解説します。
生太刀・生弓矢(いくたち・いくゆみや)誕生秘話


生太刀と生弓矢は、元々はスサノオノミコト(須佐之男命)が支配する「根の国(ねのくに)」の宝物殿に保管されていた宝でした。



製作者は不明で、具体的な製作時期も不明です
神話の時系列では、スサノオが高天原を追放されてヤマタノオロチを退治し、根の国(黄泉の国に近い異界)の王として君臨していた時期にあたります。
オオナムチ(後のオオクニヌシ)は兄弟神(八十神)を差し置いて因幡のヤカミヒメ(八上比売)に選ばれたことで、嫉妬によって二度も殺されてしまいました。
- 1回目:猪に見立てた焼けた大石に潰されてしまった
- 2回目:大きな木に挟まれて圧死



オオナムチの母がカミムスビノカミ(神産巣日神)に頼み込み、遣わされた女神(キサガイヒメ、ウムギヒメ)によって蘇生されました


Onamuchi no Mikoto by Aoki Shigeru (Ishibashi Museum of Art).(1905年)
兄弟神(八十神)たちからの迫害に耐えかねたオオナムチは、母の助言で助けを求めて根の国のスサノオを訪ねます。
そこでスサノオの娘であるスセリビメと恋に落ちますが、スサノオはオオナムチに対して「蛇の室」や「ムカデと蜂の室」に寝させるなどの過酷な試練を与えました。



スセリビメはオオナムチに「天の比礼(蛇の比礼・蜂の比礼)」を渡して試練の手助けをします
すべての試練を乗り越えたオオナムチは、スサノオが昼寝をしている隙にスセリビメを背負って生太刀と生弓矢、そして天の詔琴(アメノノリゴト)という3つの宝物を盗み出して、地上への脱出を図りました。


天の沼琴 – Ama no Nugoto.(1918年)
これがオオクニヌシの手元にこの武器が渡った経緯です。
生太刀・生弓矢(いくたち・いくゆみや)の能力


生太刀・生弓矢の能力は、葦原中国を平定した「圧倒的な活力と支配力」です。
「生(いく)」という言葉には、「生き生きとした」「霊力が盛んな」「真正な」という意味が込められています。
対になる言葉として「死(まかる)」があり、これらとは逆に死者を蘇らせる「死返玉(まかるがえしのたま)」なども存在します。



ちなみに「死返玉(まかるがえしのたま)」は十種神宝のひとつで、とくに重要な秘宝として知られています
スサノオが逃げるオオクニヌシに向けて叫んだ以下の言葉から、生太刀・生弓矢の能力が定義されています。
「その生太刀・生弓矢をもって、お前の異母兄弟(八十神)たちを、山の坂、川の坂に追い詰めよ! そしてお前が大国主となり、わが娘のスセリビメを正妻として、立派な宮殿を建てて暮らすのだ! こやつめ!」
生太刀・生弓矢の能力
- 絶対的な平定力
敵対するものをなぎ払い、追放する力 - 国造りの権能
荒れた土地を切り拓き、宮殿を建て、国を統治する正当性を与える力
生太刀・生弓矢は単に敵を殺傷する鋭さよりも、「その武器を持つ者こそが王である」と周囲に認めさせるカリスマ性や呪術的な強制力を持った武器と言えるでしょう。
生太刀・生弓矢の形状は?
日本神話には生太刀・生弓矢の詳細な形状の記述はありません。



しかし当時の「太刀」や出土品から、その姿を推測できます
- 生太刀
日本刀のような反りはなく、真っ直ぐで重厚な「直刀(ちょくとう)」
スサノオの秘蔵品であるため、柄や鞘には金や銅で龍などの豪華な装飾が施されていた可能性 - 生弓矢
日本の古代弓特有の、2メートルを超える長大な大弓
ひと目で「王の器」と分かる神々しい輝きを放っていたと予想
生太刀・生弓矢はアマテラスの「三種の神器(草薙剣、八咫鏡、八尺瓊勾玉)」に匹敵するとも言われる神宝なので、儀礼用のような美しさを持ちながら、恐ろしいほどの切れ味を持つと予測できます。
生太刀・生弓矢は現在「美具久留御魂神社」に祀られている


Migukurumitama-jinja, honden and kami-haiden.(2019年)
生太刀・生弓矢は、現在は大阪府の「美具久留御魂神社」に祀られていると言われています。
美具久留御魂神社の社伝(言い伝え)によると、大国主命が根の国から持ち帰った「生太刀・生弓矢」が御神宝として奉納されています。
社伝によると、崇神天皇10年(紀元前88年)に当時のこの地にしばしば五彩の大蛇が出没して農民を悩ませました。
そこで天皇自らが視察すると「これはオオクニヌシの荒御魂によるものである」とのこと。
出雲振根(いずものふりね)に杵築大社から生大刀・生弓矢を移させ、オオクニヌシのご神体として祀らせたのが始まりとされています。



普段私たちがその姿を見ることはできませんが、神話の武器が今もどこかで静かに眠っていると考えると、とてもロマンがありますね
生太刀・生弓矢(いくたち・いくゆみや)の所有者はオオクニヌシ


大国主神と鼠 – Ōkuninushi and the Field Mouse.(1911年)
生太刀・生弓矢はスサノオからオオクニヌシへ継承されました。
- 須佐之男命(スサノオノミコト)
原所有者
三貴神の一人で、根の国の大神であり、武勇の神 - 大国主神(オオクニヌシノカミ)
継承者
スサノオの試練を乗り越え、娘婿としてこの武器を受け継いだ(奪い取った)
生太刀・生弓矢を手に入れたことで、オオクニヌシは単なる「オオナムチ(貴人)」から、国を治める偉大な主である「オオクニヌシ(大国主)」へとその名を変えることになります。



オオクニヌシは生太刀・生弓矢があったからこそ、葦原中国を平定して国づくりができたのです
生太刀・生弓矢(いくたち・いくゆみや)にまつわる神話


天の沼琴 – Ama no Nugoto.(1918年)
生太刀・生弓矢の最大の見せ場は『古事記』における「根の国からの脱出」のシーンです。
オオクニヌシが宝物とスセリビメを携えて逃げ出した際、持ち出した「天の詔琴」が木の枝に触れて天地に響くような大きな音を立ててしまいました。
これで目を覚ましたスサノオは、彼らを黄泉比良坂(よもつひらさか・あの世とこの世の境界)まで追いかけます。
しかしスサノオは彼らを殺そうとはせず、遠ざかるオオクニヌシの背中に向かってこう叫びました。
「その生太刀・生弓矢をもって、お前の異母兄弟(八十神)たちを、山の坂、川の坂に追い詰めよ! そしてお前が大国主となり、わが娘のスセリビメを正妻として、立派な宮殿を建てて暮らすのだ! こやつめ!」
この言葉は「呪言(ことあげ)」となり、強力な祝福の魔法として機能します。
地上に戻ったオオクニヌシは、言われた通りに生太刀と生弓矢を振るって意地悪な兄弟神たちをすべて一掃し、ついに葦原中国の王となりました。
生太刀・生弓矢は、オオクニヌシの英雄譚を完結させるためのキーアイテムだったのです。
生太刀・生弓矢(いくたち・いくゆみや)が現代作品に与える影響


生太刀・生弓矢は「草薙の剣」ほどの知名度はありませんが、日本神話に詳しい層やファンタジー作品においては「強力な霊威を持つ武器」として登場します。
- 『モンスターストライク(モンスト)』
オオクニヌシ(大国主)が持つ神威(しんい)として「生太刀・生弓矢」が登場
生命力を与えたり、生きているかのように敵を追いかける矢で攻撃する能力 - 『遙かなる時空の中で4』
作中でアイテムや設定として登場 - 『真・女神転生』シリーズ
ゲーム内でのイベント進行に不可欠な宝物として登場
生太刀・生弓矢は、ゲームでは回復効果や自動追尾する遠距離攻撃(弓矢)として表現されることが多いです。



ほかにも、敵を倒すだけでなく「生かす」「国を作る」という性質から、単純な暴力装置ではない「王者の剣」のモチーフとして引用されることもあります








