
| 名称 | 天の詔琴(アメノノリゴト) |
|---|---|
| 神話体系 | 日本神話(記紀神話) |
| 所有者 | スサノオ → オオクニヌシ |
| 製作者 | 不明 |
| 形状 | 6弦の和琴(推測) |
| 主な能力 | 天地を震わす共鳴音 神意の伝達 |
天の詔琴(アメノノリゴト)は日本神話に出てくるオオクニヌシのアイテムです。
日本神話において、オオクニヌシがスサノオから受け継いだ宝物は武器だけではありませんでした。
生太刀・生弓矢とともに根の国から持ち出されたのが、「天の詔琴(アメノノリゴト)」と呼ばれる神聖な琴です。
武器や防具の影に隠れがちですが、天の詔琴こそがオオクニヌシの逃亡劇において最もドラマチックな役割(失敗の原因であり、継承のきっかけ)を果たしたキーアイテムです。
古代日本における「音」と「神意」の関係を象徴する、この不思議な楽器について解説します。
天の詔琴(アメノノリゴト)誕生秘話


天の詔琴は、元々はスサノオノミコト(須佐之男命)が支配する「根の国(ねのくに)」の宝物殿に保管されていた宝でした。



製作者は不明で、具体的な製作時期も不明です
神話の時系列では、スサノオが高天原を追放されてヤマタノオロチを退治し、根の国(黄泉の国に近い異界)の王として君臨していた時期にあたります。
オオナムチ(後のオオクニヌシ)は兄弟神(八十神)を差し置いて因幡のヤカミヒメ(八上比売)に選ばれたことで、嫉妬によって二度も殺されてしまいました。
- 1回目:猪に見立てた焼けた大石に潰されてしまった
- 2回目:大きな木に挟まれて圧死



オオナムチの母がカミムスビノカミ(神産巣日神)に頼み込み、遣わされた女神(キサガイヒメ、ウムギヒメ)によって蘇生されました


Onamuchi no Mikoto by Aoki Shigeru (Ishibashi Museum of Art).(1905年)
兄弟神(八十神)たちからの迫害に耐えかねたオオナムチは、母の助言で助けを求めて根の国のスサノオを訪ねます。
そこでスサノオの娘であるスセリビメと恋に落ちますが、スサノオはオオナムチに対して「蛇の室」や「ムカデと蜂の室」に寝させるなどの過酷な試練を与えました。



スセリビメはオオナムチに「天の比礼(蛇の比礼・蜂の比礼)」を渡して試練の手助けをします
すべての試練を乗り越えたオオナムチは、スサノオが昼寝をしている隙にスセリビメを背負って生太刀と生弓矢、そして天の詔琴(アメノノリゴト)という3つの宝物を盗み出して、地上への脱出を図りました。


天の沼琴 – Ama no Nugoto.(1918年)
これがオオクニヌシの手元にこの武器が渡った経緯です。
天の詔琴(アメノノリゴト)の能力


「詔(のり・みことのり)」とは、天皇や神が命令を下すこと、つまり「神の言葉」そのものを意味します。
つまり天の詔琴は単なる楽器ではなく、「神の意志を音に乗せて世界に響き渡らせる祭祀道具」です。



神話内の描写や古代の琴(和琴)の役割から、以下のような能力が推測できます
- 天地を震わす共鳴
- 神託を下す機能
- 王権の証明(祭祀権)
神話では、天の詔琴が木に触れただけで「大地がどよめくほどの大きな音」が鳴り響いたとされ、所有者の魔力や神気を増幅して物理的な音量を超えた「世界を揺るがす波動」を放つ力があると考えられます。
また、古代日本において琴(コト)は「事(コト)」に通じ、神降ろしの儀式に使われました。
天の詔琴を弾くことで神の言葉を聞いたり、逆に神(スサノオのような荒ぶる神)を鎮めたりする力があったとされます。
そして生太刀・生弓矢が「軍事・警察権」の象徴なら、天の詔琴は「宗教・祭祀権」の象徴であり、国を治めるために不可欠な「霊的な権威」を保証するアイテムです。
天の詔琴(アメノノリゴト)の形状は?
日本神話には天の詔琴の詳細な形状の記述はありません。



日本古来の和琴の形状や、祭祀道具であったことから形状を予想してみました
- 弦の数
6本(現代の琴より少ない) - 形状
スプーンのような形の長い共鳴胴を持つ - 雰囲気
雅(みやび)な楽器というよりは、神事に使う素朴で呪術的な道具
天の詔琴は生太刀・生弓矢とともに、アマテラスの「三種の神器(草薙剣、八咫鏡、八尺瓊勾玉)」に匹敵するとも言われる神宝なので、儀礼用のような美しい和琴であると予測できます。
天の詔琴(アメノノリゴト)の所有者はオオクニヌシ


大国主神と鼠 – Ōkuninushi and the Field Mouse.(1911年)
天の詔琴はスサノオからオオクニヌシへ継承されました。
- 須佐之男命(スサノオノミコト)
原所有者
三貴神の一人で、根の国の大神であり、武勇の神 - 大国主神(オオクニヌシノカミ)
継承者
スサノオの試練を乗り越え、娘婿としてこの武器を受け継いだ(奪い取った)
スサノオが天の詔琴を弾いて眠っていた描写はありませんが、根の国の支配者として天の詔琴で黄泉の国や自然霊を従えていた可能性があります。
また、スサノオから奪取した後に天の詔琴がどう使われたかは定かではありませんが、国造りの際の神事や、国譲りの儀式などで用いられたのではないでしょうか。
天の詔琴(アメノノリゴト)にまつわる神話


天の沼琴 – Ama no Nugoto.(1918年)
天の詔琴が最も輝く(そしてオオクニヌシを最大のピンチに陥れる)のが、「根の国からの脱出」のクライマックスです。
生太刀・生弓矢、そして天の詔琴を持ってスセリビメを背負い、スサノオの宮殿からこっそり抜け出したオオナムチ(後のオオクニヌシ)。
完全に脱出成功かと思われたその時、背負っていた天の詔琴が木の枝(または地面)に触れてしまいました。
「ベベン!!!」(大地がどよめくような轟音)
その音はあまりに大きく、天地に響き渡り、熟睡していたスサノオが飛び起きてしまいます。
スサノオは髪を垂木に結び付けられていたため、起き上がった勢いで宮殿(柱や屋根)がメリメリと引き倒され、壊れてしまいました。
この「琴が鳴って宮殿が崩壊する」という大惨事の間に、オオクニヌシたちは距離を稼ぐことができましたが、結果としてスサノオによる猛追跡(黄泉比良坂の追いかけっこ)が始まってしまいます。
もし天の詔琴が鳴らなければ、オオクニヌシはスサノオに気づかれずに逃げ仰せていたかもしれません。
しかし気づかれずに逃げていたら、スサノオからの激励(呪言)も貰えなかった可能性があります。
スサノオの呪言
「その生太刀・生弓矢をもって、お前の異母兄弟(八十神)たちを、山の坂、川の坂に追い詰めよ! そしてお前が大国主となり、わが娘のスセリビメを正妻として、立派な宮殿を建てて暮らすのだ! こやつめ!」
天の詔琴はスサノオを目覚めさせ、オオクニヌシへの「最後の言葉」を引き出すための「目覚まし時計」兼「運命のスイッチ」だったと言えるでしょう。
天の詔琴(アメノノリゴト)が現代作品に与える影響


天の詔琴は「知る人ぞ知る神器」として現代作品に登場することがあります。
- 『東方Project』
登場キャラクター・九十九八橋のスペルカード琴符「天の詔琴」として登場
弾幕として音符や光をばら撒く攻撃として表現されており、神話における「天地を震わす音」のイメージが反映
天の詔琴はかなりマニアックなアイテムであるため、ゲームや漫画での登場例はとても少ないです。
多くの作品では「魔法の琴」や単に「和琴」として登場してしまい、固有の名称(天の詔琴)で呼ばれることは稀です。
しかし和風ファンタジーにおいて「神の声を聴く楽器」「音で攻撃する神具」が登場する場合、天の詔琴がルーツになっていると考えられます。



逆に言えば「天の詔琴を採用している作品は神話へのこだわりが凄い」とも言えます








