
| 名称 | 天の比礼(蛇の比礼・蜂の比礼) |
|---|---|
| 神話体系 | 日本神話(記紀神話) |
| 所有者 | スセリビメ → オオクニヌシ |
| 製作者 | 不明 |
| 形状 | 女性が羽織る薄い布(スカーフ状) |
| 主な能力 | 魔物(蛇・ムカデ・蜂)を退ける結界のような能力 |
天の比礼(蛇の比礼・蜂の比礼)は日本神話に出てくるオオクニヌシが試練の際に用いた守護の神具です。
まい日本神話の武器や道具は攻撃的なものが多いですが、数少ない「防具」「結界具」として登場するのが天の比礼(あめのひれ)です
「比礼(ひれ)」とは、古代の女性が首や肩にかけていたスカーフのような布を意味します。
しかし神話に登場するこの比礼は、ひとたび振るえば魔物を退け、あらゆる災厄から身を守る強力なマジックアイテムとして描かれています。
オオクニヌシがスサノオから与えられた絶体絶命の試練を生き延びることができたのは、この比礼のご利益があったからこそでした。
身を守る「魔法の防具」としての側面が強い神器「天の比礼」について解説します。
天の比礼(蛇の比礼・蜂の比礼)誕生秘話


天の比礼は、スサノオノミコトの娘であるスセリビメノミコト(須勢理毘売命)が所持していた宝物です。



製作者は不明で、具体的な製作時期も不明です
オオナムチ(後のオオクニヌシ)が根の国を訪れた際、スサノオは彼を試すために数々の恐ろしい試練を与えました。
「蛇の室(むろ)」や「ムカデと蜂の室」といった、普通なら命を落とすような場所に寝泊まりさせられたオオナムチ。
そんな彼を愛してしまったスセリビメが「どうか死なないで」という願いと共にこっそり手渡したのが、この魔法の比礼でした。
元々スサノオが持っていたものを娘が使ったのか、あるいは女神であるスセリビメ自身が織り上げたものかは定かではありませんが、根の国の魔物たちすら従わせる強力な霊力が込められています。
天の比礼(蛇の比礼・蜂の比礼)の能力


天の比礼の能力は「特定の魔物や災厄を無力化する(追い払う)」ことです。



使用法はシンプルで、なんと「比礼を3回振る」だけです
神話には、敵の種類に合わせて2種類の比礼が登場します。
- 蛇の比礼(へびのひれ)
蛇を追い払う能力を持つ
襲い来る蛇に対してこの比礼を3回振ると、蛇はその霊力に恐れをなして自然と鎮まり、退散してしまう - 蜂の比礼(はちのひれ)
別名「呉公(ムカデ)と蜂の比礼」
ムカデや蜂などの毒虫を追い払う能力を持つ
これも同様に3回振ることで、群がる害虫を退けることができる
つまり現代のゲームで言えば、「特定の種族(ドラゴンや虫など)からのダメージを無効化するアクセサリー」や「敵とのエンカウントを回避するアイテム」に近い性質を持っていると言えます。
天の比礼(比礼)の形状
「比礼(ひれ)」という言葉は現代では馴染みが薄いですが、女性が身につけるスカーフのようなものだったと考えられます。



古墳時代の埴輪(はにわ)や絵画など、古代の情報から「比礼(ひれ)」の形状を推測してみました
- 形状
現代で言う「ロングスカーフ」や「ショール」に近い形状
女性が首にかけたり、両手でひらひらとさせたりして身につける - 素材と色
神聖な麻や絹で織られた、非常に薄く軽やかな布であったと推測
色は清浄さを表す純白、あるいは赤や青などの染色が施されていた可能性
一見するとただの美しい布ですが、霊力を発動すると淡い光を放ち、不可視のバリアを展開するかのような神々しさがあったと想像されます。
日本神話に登場するその他の天の比礼


Origin of the Cave Door Dance (Amaterasu) by Shunsai Toshimasa 1889.(1889年)
日本神話にはオオクニヌシが使ったもの以外にも、いくつかの有名な「比礼」が登場します。



「天の比礼」と検索した場合、以下のものを指している場合もあります
日本神話に登場するその他の天の比礼
死者を蘇らせる「十種神宝の比礼」


物部氏に伝わる伝説の秘宝「十種神宝(とくさのかんだから)」の中にも、同名のアイテムが含まれています。



十種神宝はアマテラスの孫であるニギハヤヒの天孫降臨の際に地上にもたらされた神宝です
【比礼(ひれ)】魔を払い、場を清める3枚の布
- 蛇比礼(おろちのひれ)
這い寄る毒蛇や魔物を退ける布 - 蜂比礼(はちのひれ)
空から来る害虫や魔物を退ける布 - 品物之比礼(くさぐさのもののひれ)
あらゆる種類の邪気を祓う万能の布
名前は同じですが、十種神宝における比礼は「魔除け」に加え、「死者を蘇らせるほどの強力な呪術具」として定義されています。
オオクニヌシの比礼と同名・同系統の呪具として後世に習合・混同された可能性が高く、神話的なルーツは同じであると考えられます。
祭祀に特化した「アメノウズメの比礼」


The Goddess Uzume with Rooster and Mirror (Harvard Art Museums).(1868年以前)
天岩戸神話において、芸能の女神・アメノウズメが踊った際にも比礼(あるいは襷)を持っていたとされます。



アメノウズメの比礼は「天女の羽衣」と混合されたりもします
アメノウズメの比礼は、魔物を追い払う防具ではなく、布を振ることで神の魂を活性化させる「魂振り(たまふり)」のための祭祀道具です。
現代の神社で巫女が神楽(かぐら)を舞う際に布を持って振るのは、このアメノウズメの比礼が由来となっています。
天の比礼(蛇の比礼・蜂の比礼)の所有者はスセリビメ・オオクニヌシ


大国主神と鼠 – Ōkuninushi and the Field Mouse.(1911年)
天の比礼(蛇の比礼・蜂の比礼)の本来の持ち主はスサノオの娘・スセリビメです。
スセリビメは父であるスサノオの荒々しい試練から守るため、独断でこの強力な神具を持ち出してオオクニヌシに与えました。
- スセリビメ(提供者)
愛する夫を守るため、父の宝物庫(あるいは自身の持ち物)から比礼を与えた - オオクニヌシ(使用者)
比礼の力で試練を突破し、後にスセリビメを正妻に迎えた
「生太刀・生弓矢・天の詔琴」がオオクニヌシ自身がスサノオから継承した「王の証(武力・統治権)」であるのに対し、天の比礼(蛇の比礼・蜂の比礼)はスセリビメからオオクニヌシへの「愛の証(守護)」として贈られたアイテムと言えます。
天の比礼(蛇の比礼・蜂の比礼)にまつわる神話


『古事記』には、天の比礼(蛇の比礼・蜂の比礼)を使った具体的な防衛戦が描かれています。
第一の夜:蛇の室


スサノオはオオナムチ(後のオオクニヌシ)を、無数の毒蛇がうごめく部屋に泊まらせました。
スセリビメは密かにオオナムチに「蛇の比礼」を渡し、「蛇が噛もうとしてきたら、この比礼を3回振りなさい」と教えます。
オオナムチが言われた通りにすると、蛇たちは自然と鎮まり、彼はぐっすりと眠ることができました。
第二の夜:ムカデと蜂の室


翌夜、悔しがったスサノオは、今度はムカデと蜂が充満する部屋にオオナムチを入れました。
スセリビメは再び「呉公(ムカデ)と蜂の比礼」を渡し、同じように使うよう助言します。
比礼を振ると毒虫たちは退散し、オオナムチはまたしても無傷で朝を迎えることができました。



天の比礼(蛇の比礼・蜂の比礼)のおかげで、オオクニヌシはスサノオの過酷な試練を耐え抜き、最終的に宝物とスセリビメを連れて脱出することに成功したのです
天の比礼(蛇の比礼・蜂の比礼)が現代作品に与える影響


天の比礼(蛇の比礼・蜂の比礼)は「比礼を振って魔を払う」という行為やアイテムとして、現代のサブカルチャーにも影響を与えています。
- 『呪術廻戦』
伏黒恵の十種影法術が、十種神宝をモチーフにした呪術とも言われる
蛇比礼 → 「大蛇(オロチ)」
蜂比礼 → 「鵺(ぬえ)」 または 「満象(ばんしょう)」
品物之比礼 → 「脱兎(だっと)」 - RPGやファンタジー作品
直接的に「天の比礼」という名前が出ることは少ない
「天女の羽衣(はごろも)」や「守りのスカーフ」、「聖なるローブ」といった防御アイテムの元ネタ的な存在
「特定の敵を寄せ付けない」「毒を防ぐ」というアクセサリー効果は、まさにこの神話の比礼そのものと言える



比礼は剣や鎧のような派手さはありませんが、英雄の命を救って物語をハッピーエンドへと導いた、日本神話における隠れたMVPアイテムなのです








