
| 名称 | ブリューナク |
|---|---|
| 神話体系 | ケルト神話 |
| 所有者 | ルー |
| 製作者 | 不明 またはゴリアスの賢者エスラス |
| 形状 | 穂先が5本に分かれている(手のひらのような形)槍 |
| 主な能力 | 穂先から5つの雷(レーザー)を放ち、敵を自動追尾して殲滅する |
ブリューナクはケルト神話が元ネタとされる光の神ルーの武器です。
まいしかしケルト神話にブリューナクという武器は存在しません
RPGやファンタジー作品でおなじみの最強の槍、ブリューナク。
「貫くもの」という意味を持ち、穂先が5つに分かれており雷を操る光の神ルーの武器として知られています。
実はこの「ブリューナク」という名前は、日本でしか通用しない「誤解」から生まれた幻の武器なのです。
なぜ存在しない武器がこれほど有名になったのか?
そして光の神ルーが持っていた「本当の槍」とは何だったのか?
以下で詳しくブリューナクとルーの本当の槍について解説していきます。
ブリューナク誕生秘話


「ブリューナク(Brionac)」という単語はケルト神話の原典にはどこにも出てきません。
ネットで検索しても、ヒットするのは日本のゲーム解説サイトや個人サイトのみです。



つまりブリューナクの神話は「和製ケルト神話」とも言える現象なのです
なぜ日本でだけ「ブリューナク」という武器が生まれ、有名になったのか調査したところブリューナクは90年代に販売された資料集の誤記が語源ではないかと考えられます。
ただしブリューナクという名前は存在しませんが、光の神ルーの最強の槍は神話の中に実在しました。
本当のルーの槍は、ダーナ神族がアイルランドに上陸する前に住んでいた北方の魔法都市の一つゴリアスからもたらされたと言われています。



ダーナ神族は、アイルランドに来る前に「北方の四つの魔法都市」で修行し、それぞれの都から一つずつ伝説の宝物を持ち込みました
日本で「ブリューナク」と呼ばれる槍もその一つです
北方の四つの都市の四至宝
| 都市名 | 至宝 | 備考 |
|---|---|---|
| フェリアス | リア・ファイル | 即位する王が叫ぶ石 |
| ゴリアス | ブリューナク | 光の神ルーの槍 |
| ムリアス | ダグザの大釜 | 食糧が尽きない釜 |
| フィンディアス | クラウ・ソラス | ヌアザの剣 |
つまり、「ブリューナク(ゴリアスの槍)」と聖剣として有名な「クラウ・ソラス(フィンディアスの剣)」は、同じ起源を持つ兄弟のような宝具だったのです。
ブリューナクは90年代に販売された資料集の誤記が語源?
「ブリューナク」という名前は90年代に販売された「ファンタジーRPGのための用語辞典(資料集」)の誤記が語源である可能性が高いです。
ケルト神話の英語の解説書にあった「Briar(稲妻のような)」や「Gae buide(ゲイ・ボウ)」などの単語の綴りを読み間違えたか、あるいは著者が創作した名前が、そのまま「公式設定」として広まってしまったと考えられています。



当時は国内でチェックできるケルト神話の資料が少なかったため、誤記のまま広まってしまったようです
本当のルーの槍は1本だけじゃない?


Lugh spear Millar.(1905年)
ブリューナクはルーの槍につけられた日本独自の名前ですが、本当のルーの槍は神話原典に固有の名前はありませんでした。



「ブリューナク」の元ネタを神話を調べると、ルーの槍には複数の名前や設定がありますが、これは神話の出典によって記述が異なるためです
神話の記述を整理すると、ルーの槍は大きく分けて「ゴリアスの槍(アラドヴァル)」と「アッサルの槍」の2種類があることがわかります。
ルーの槍2種類比較
| 項目 | ゴリアスの槍(アラドヴァル) | アッサルの槍 |
|---|---|---|
| 系統 | 破壊と殺戮の槍 | 必中の投擲槍 |
| 由来 | 北方の都ゴリアスからもたらされた四至宝の一つ | ペルシアの王アッサル(またはピサール)から奪った |
| 能力 | ・殺意が高すぎて戦い以外の時も発熱して燃える剣 ・鎮静化のために毒液につけて冷やしておかなければならない | ・自動追尾可能で「イヴァル」と棚えて投げると命中 ・「アスィヴァル」と唱えると手元に戻る |
物語の整合性を重視するなら、「ルーは故郷から持ってきた『ゴリアスの槍』とは別に、後の冒険で『アッサルの槍』を手に入れた」と解釈し、2本(あるいはそれ以上)を使い分けていたとするのが自然です。



しかし、神話学的には「本来は1つの『雷神の槍』という概念だったものが、伝承の過程で分裂した」と考えられています
「すごい槍」のエピソードが複数生まれ、それぞれに違う名前や入手経路(ゴリアスだったりペルシアだったり)が後付けされた結果、矛盾が生じたというわけです。
ちなみに神話ではこれらは別々の槍(あるいは同一の槍の別伝承)として扱われますが、日本の「ブリューナク」は、これらの特徴(意思を持つ、必中など)を全てミックスして作られた、究極のハイブリッド兵器だと言えるでしょう。
だからこそ、神話にはない名前なのに、妙に神話っぽい説得力を持っているのです。
ブリューナクの能力


ブリューナクの能力は、穂先から5つの雷(レーザー)を放って敵を自動追尾して敵を殲滅可能なことです。



高火力でかなり映える攻撃なので、RPGでは最強クラスの槍として頻繁に登場します
ただし神話のルーの槍とは形状や能力も異なっているので一覧表で比較しました。
| 項目 | 日本独自設定 | 神話原典 |
|---|---|---|
| 名前 | ブリューナク | ・ルーの槍 ・ゴリアスの槍(アラドヴァル) ・アッサルの槍 |
| 形状 | 穂先が5本に分かれている | 普通の槍 |
| 能力 | ・穂先から5つの雷(レーザー)を放って敵を自動追尾 | ・自動追尾可能で「イヴァル」と棚えて投げると命中し、「アスィヴァル」と唱えると手元に戻る ・殺意が高すぎて戦い以外の時も発熱して燃える剣 ・鎮静化のために毒液につけて冷やしておかなければならない |
ブリューナクの所有者はルー


ブリューナクの所有者は光の神ルーと言われています。
ブリューナク自体はケルト神話に存在しない架空の武器ですが、モデルとなったゴリアスの槍(アラドヴァル)やアッサルの槍もルーの武器です。
ルーはアイルランドに渡来したダーナ神族と、アイルランドの先住の巨人フォモール族の混血で、ケルト神話最大の英雄クー・フーリンの父親と言われています。
成長したルーが神々の救世主として現れると、ダーナ親族の王ヌアザはルーに王座と軍の指揮権を譲りました。



このときヌアザが管理していた四至宝の一つ、ゴリアスの槍(アラドヴァル)をルーが継承しました
そしてダーナ神族とフォモール族の戦い(第二次マグ・トゥレドの戦い)では自慢の槍で敵軍を薙ぎ払います。
最後は魔弾「タスラム(投石)」によって邪眼のバロールを倒し、ダーナ神族に勝利と平和をもたらしました。
フォモール族との戦い(第二次マグ・トゥレドの戦い)
アイルランドに侵攻し、先住民フィル・ボルグ族との戦いに勝利したヌアザは右腕を失ってしまったため、王位を退きます。
ケルトの掟において肉体が欠損することは王権の喪失を意味したため、王位は七年の間先住の巨人族フォモール族を父にもつブレスが継ぐことになりました。
しかしブレスは暴君で、ヌアザは王位を奪還するために医神ディアン・ケヒト作の銀造りの義手を得て力を回復しますが、ダーナ神族は苦戦を強いられます。
そこでヌアザは、救世主として現れたルーに王座と全軍の指揮権、そして最強の武器である「ゴリアスの槍」を譲り渡したのです。





ルーはフラガラッハの持ち主として有名ですが、実は邪眼のバロールの孫でした
バロールは孫に倒されるという予言を受けており、実際に孫のルーによって倒されたのでした
ゴリアスの槍(アラドヴァル)とアッサルの槍にまつわる神話


ブリューナクの元ネタと言われているゴリアスの槍(アラドヴァル)とアッサルの槍にまつわる神話をまとめました。
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意思を持つ「アラドヴァル(殺戮者)」


ゴリアスの槍(アラドヴァル)は北方の都ゴリアスからもたらされた四至宝の一つで、最大の特徴は「常に血に飢えている」ことでした。
ゴリアスの槍(アラドヴァル)は生きており、敵の血を求めて常に振動していました。
血の匂いを嗅ぎつけると(あるいは戦時になると)持ち主の手を離れて勝手に飛び出し、敵味方関係なく焼き殺そうとするほどでした。
そのため、所有者は戦闘時以外にはゴリアスの槍(アラドヴァル)を鎮静剤(毒汁)で満たした大釜に沈めて封印しておかねばなりませんでした。



鎮静剤はケシの葉(睡眠薬)や毒草を煮出した黒い液体でした
巨人族(フォモール族)との決戦において、ルーはゴリアスの槍(アラドヴァル)を振るいました。
彼がゴリアスの槍(アラドヴァル)を構えると、その輝きと熱で敵軍は恐れおののいたそうです。
(※ただし、ラスボスのバロールを倒したのは「投石」です。この槍は、それ以外の軍勢を薙ぎ払うために使われました)



日本の「ブリューナク」のイメージにある「勝手に動く」「強力な破壊力」という要素は、このゴリアスの槍(アラドヴァル)から来ています
必中の「アッサルの槍」


アッサルの槍はルーが父キアンの仇討ちのために、トゥレンの息子たちに命じて「奪ってこさせた」アイテムです。
ルーの父親キアンが、政敵である「トゥレンの3人の息子」に殺されました。
激怒したルーは彼らに対し、父の命の代償として世界中の魔法の宝物を集めてくるよう命じます。
そのリストの一つが、「ペルシアの王アッサルが持つ魔法の槍」でした。
トゥレンの息子たちは苦難の末にアッサル王のもとへたどり着き、交渉、あるいは戦いによってアッサルの槍を手に入れました。



アッサルの槍は呪文によって自動追尾する高機能型の槍でした
アッサルの槍の呪文
- 「イヴァル(Ibar)!」 と唱えて投げれば、どんなに遠くの敵にも必ず命中する
- 「アスィヴァル(Athibar)!」 と唱えれば、主人の手元に戻ってくる
ちなみに、「イヴァル」という呪文が誤解されて「槍の名前」として広まってしまった経緯がありました。
「イヴァル(Ibar)」とは、古アイルランド語で「イチイの木」を意味し、当時の槍の柄がイチイの木で作られていたことに由来すると考えられています。
トゥレンの息子たちは、この槍を含むすべての宝物を持ち帰りましたが、冒険で負った傷によって全員死んでしまいます。
ルーはこの槍を手に入れましたが、それは仇たちの命と引き換えに得たものでした。



アッサルの槍の機能は、「ブリューナク」のイメージにある「必ず当たる」「手元に戻る」という機能面の元ネタです
ブリューナクが現代作品に与える影響


ブリューナクは「存在しない名前」であるにも関わらず、日本のコンテンツ業界で確固たる地位を築いています。



とくにゲームには伝説の武器として頻繁に「ブリューナク」の名前が出てきます
- 『ファイナルファンタジー』シリーズ
最強クラスの槍として頻繁に登場
「ブリューナク」の知名度を上げた最大の功労者の一つ - 『ロマンシング サ・ガ』シリーズ
槍技や武器として登場 - 『Fate』シリーズなど
本来の名の「アラドヴァル」として登場することも
近年の作品では、リサーチが進んだためか「ブリューナク」という名前を避けて「ブリューナク(と伝承されるが、真名は別にある)」といったメタ的な扱いをされたり、本来の名の「アラドヴァル」として登場することもあります。
ブリューナクは、誤訳や創作から生まれた「幻の武器」でしたが、「5つに分かれた穂先」「雷を放つ」という日本独自のかっこいい設定は、多くのクリエイターとファンに愛され、いまや一つの「和製神話」として定着しています。



アイルランドの英雄が見たら「なんだその槍は?」と驚くかもしれませんが、私たちが愛した「最強の槍ブリューナク」の伝説は、間違いなく日本のファンタジー文化の一部なのです








