【ゲイ・ボルグ】ケルト神話クー・フーリンの武器

【ゲイ・ボルグ】ケルト神話クー・フーリンの武器
ゲイ・ボルグを持ったクー・フーリン
名称ゲイ・ボルグ
神話体系ケルト神話
所有者クー・フーリン
製作者ボルグ・マック・ベイン
形状海獣の骨で作られた槍(銛に近い)
主な能力刺さると体内で30のトゲが開く
切り開かないと抜けない
ゲイ・ボルグデータベース

ゲイ・ボルグはケルト神話に出てくる最高の英雄クー・フーリンの武器です。

まい

ゲイ・ボルグは師匠スカサハからクー・フーリンが受け取った絶大な攻撃力を持ちながらも、悲劇に満ちた神話が多い武器です

ケルト神話(アイルランド伝説)の英雄クー・フーリンが操る、必殺の魔槍ゲイ・ボルグ

「雷の投擲」や「袋状の槍」とも解釈されるこの武器は、現代のゲームでは華麗な必殺技として描かれますが、実際の神話では「足で投げる」「体内で30の棘(とげ)になって炸裂する」という、あまりにも惨たらしい破壊力を持つ兵器でした。

親友や我が子さえも殺めなければならなかった、英雄の悲劇と共にある魔槍ゲイ・ボルグの真実に迫ります。

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ゲイ・ボルグ誕生秘話

海獣同士の戦いで敗れた方の「コインヘン」の骨が打ち上げられているイメージ

ゲイ・ボルグはケルト神話に登場する武器です。

製作者はボルグ・マック・ベインと言われています。

ボルグ・マック・ベインは、海獣同士の戦いで敗れた方の「海獣コインヘン」の骨が打ち上げられていたのを利用してゲイ・ボルグ(ボルグの槍)を製作したそうです。

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ゲイ・ボルグはクー・フーリンが影の国(スカイ島ともされる)で師匠のスカサハから受け取りました

若き日のクー・フーリンはエメルという女性に求婚するために、影の国の最強の女戦士スカサハに弟子入りします。

Heroes of the dawn - illustration to face page 066.(1914年)
画像出典:Wikimedia commons
Heroes of the dawn – illustration to face page 066.(1914年)

スカサハには多くの弟子がいましたが、ゲイ・ボルグの使い方を伝授されたのはクー・フーリンだけでした。

理由はクー・フーリンだけがゲイ・ボルグを支える技量と神性(クー・フーリンは太陽神ルーの子)を持っていたからと言われています。

ゲイ・ボルグの能力

ケルト神話原典においてゲイ・ボルグの能力は、現代解釈のような魔法ではなく「凶悪な身体破壊ギミック」と言えます。

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現代作品では空中で分裂して降り注ぐ華麗な武器として描かれますが、神話原典においてはもっと恐ろしくグロテスクです

  • 足で投げる
  • 刺さると体内で30の棘が出る
  • 抜くためには肉を斬るしかない

ゲイ・ボルグの最大の特徴は、足の指で挟んで蹴り出すように射出すると能力が発動することです。

これによって予備動作が読めず、盾でも防ぎにくい奇襲攻撃ができるのです。

またゲイ・ボルグは敵の体に刺さると体内で30もの棘(かえし)が一気に開いて内臓と肉を破壊する恐ろしい能力を持っています。

ゲイ・ボルグの能力は正しい方法で投げないと発動しない

ゲイ・ボルグの発動イメージ

ゲイ・ボルグが敵に略奪されて自身の死に繋がったときにはこれが発動しなかったため、正しい方法で投げることで無数のとげが体内で弾けると考えられます。

さらにゲイ・ボルグは抜くためには、肉を切り開いて骨を砕かなくてはならなかったと言われています。

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当たれば即死を免れないと言われ、クー・フーリン自身も同格以上の相手と戦う時にしか使わなかった最強の切り札だったそうです

ゲイ・ボルグの材料には「コインヘン」という怪物の骨が使われているので、体内で変形するという不思議でグロテスクな力があるのでしょう。

ゲイ・ボルグの能力に「必中」はない

神話の中ではゲイ・ボルグの能力に「必中」という能力は明記されていません

多くの現代ゲームでは「必中」の攻撃とされていますが、ゲーム作品の独自解釈の能力といえます。

神話の中でのゲイ・ボルグの強さは「足で投げる奇襲性」と「当たれば助からない破壊力(30の棘が弾ける)」という物理面にあります。

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神話原典とゲーム作品でどこが違うのか知ることで、どちらもより深く楽しめますね

ゲイ・ボルグの所有者はクー・フーリン

Cuchulain in Battle.(1911年)
画像出典:Wikimedia commons
Cuchulain in Battle.(1911年)

ゲイ・ボルグの所有者はクー・フーリンです。

ボルグ・マック・ベインは製作したゲイ・ボルグを支配者Mac Iubarに献上し、その後Mac Iubarの弟子のLena、そしてDermeilに渡りました。

Dermeilはゲイ・ボルグを師匠のスカサハに渡し、最終的にクー・フーリンに受け継がれました。

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スカサハのライバルであるアイフェに渡り、コピーを製作したという説もありますが、神話の原典においては主流ではありません

クー・フーリンは「クランの猛犬」という意味で、幼少期に誤って倒してしまったクラン(鍛冶屋)の家の番犬の代わりとして家を守っていたことから呼ばれるようになった名前です。

Cuslayshound.(1904年)
画像出典:Wikimedia commons
Cuslayshound.(1904年)

幼少期のクー・フーリンの名前はセタンタで、太陽神ルーの息子でケルト神話最大の英雄と呼ばれています。

普段は華奢で美しい容姿で、全身を宝飾品で飾っているとされていますが、戦場では「ねじれの発作」によって怪物のような姿だったそうです。

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髪は逆立ち、筋肉は膨れ上がって目も変形して、まるで悪鬼のような見た目であったと言われています

ゲイ・ボルグにまつわる神話

Cuchulainn Stephen Reid.
画像出典:Wikimedia commons
Cuchulainn Stephen Reid.

ゲイ・ボルグにまつわる神話をまとめました。

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ゲイ・ボルグは無敵の魔槍でしたが、栄光と引き換えに息子・親友・自分の死をもたらすあまりにも代償が大きい武器でした

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知らないうちに息子を刺してしまった

ゲイ・ボルグの最初の悲劇は、知らずに息子に使ってしまったことです。

クー・フーリンは影の国での修行中にスカサハのライバルであるアイフェに襲撃されますが、これを倒して懇意となり息子コンラをもうけます。

コンラとの別れのときに、クー・フーリンは「決して名乗ってなならない」「挑戦を退けてはならない」という誓い(ゲッシュ)を立てさせました。

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ゲッシュとは特定の人物に課せられる「禁忌(タブー)」「誓い」「義務」です
守ることで祝福を得られますが、破ると破滅につながるので、人物の運命を大きく左右する重要な概念とされています

数年後、成長したコンラが父クー・フーリンを訪ねてアルスターへやって来ますが、ゲッシュのせいで名乗ることができません。

そのまま侵入者とみなされ、クー・フーリンと戦うことになります。

コンラは天才的な才能でクー・フーリンを追い詰めますが、相手が息子と知らないクー・フーリンは反射的にゲイ・ボルグを使ってしまいました。

ゲイ・ボルグはコンラの腹を食い破り、コンラは死の間際に自分の名前をクー・フーリンに告げます。

コンラの正体が自分の息子と知ったクー・フーリンは、自らの手で我が子を手にかけてしまったことを深く悔やみました。

親友との一騎打ちで使用された

Cuchulain, the hound of Ulster (1910) (14750105241)(1910年)
画像出典:Wikimedia commons
Cuchulain, the hound of Ulster (1910) (14750105241)(1910年)

ゲイ・ボルグで息子を手にかけてしまったクー・フーリンは、親友をもその恐ろしい力で倒さなければなりませんでした。

コナハトの女王メイヴが起こした「クーリーの牛争い」という戦争で、クー・フーリンは女神の呪いで戦えない自軍の戦士たちに代わってたった一人でメイヴ軍を食い止めます

Maev.(1911年)
画像出典:Wikimedia commons
Maev.(1911年)

メイヴはクー・フーリンを倒すため、同じ師匠スカサハの元で修行した親友で義兄弟のフェルディアを送り込みました。

クー・フーリンもフェルディアも戦いたくありませんでしたが、ゲッシュと策略によって戦わざるを得ませんでした。

実力が同等の二人の戦いは激しく、三日間も続きました。

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昼は血みどろになって戦い、夜はお互いの傷を薬草で治療しあって同じ焚き火で寝る生活だったそうです

戦いは四日目に入り、全身を角質の皮膚(あるいは堅固な鎧)で守るフェルディアに対して、クー・フーリンはついにゲイ・ボルグを使います

従者に川の上流から流させたゲイ・ボルグを足の指でキャッチし、フェルディアの唯一の隙間である尻めがけて蹴り放ちました。

ゲイ・ボルグはフェルディアの身体に深く突き刺さり、30の棘が体内で弾けました。

倒れた親友フェルディアを抱えたクー・フーリンは嘆き悲しみ、槍の回収のために泣く泣くその身体を切り刻まなければならないのでした。

敵に略奪され、自身の死に繋がった

Cuchulainn's death, illustration by Stephen Reid 1904.(1904年)
画像出典:Wikimedia commons
Cuchulainn’s death, illustration by Stephen Reid 1904.(1904年)

ゲイ・ボルグは最後にはクー・フーリンの命も奪いました

クー・フーリンの宿敵であるコナハトの女王メイヴは、武力で勝てないことを悟ると陰湿な作戦を立てました。

実はクー・フーリンはいくつかのゲッシュを立てており、メイヴは「詩人の要求を断らない」というゲッシュを利用します。

クー・フーリンの立てたゲッシュ
  • 犬の肉を食べない
  • 自分より身分の低い者からの食事の誘いを断らない
  • 詩人の言葉には逆らわない

メイヴは戦場に詩人を送り込み、詩人はクー・フーリンに「ゲイ・ボルグをくれ。さもなくばお前の悪口を歌にして名誉を汚す。」と言います。

名誉を重んじるクー・フーリンは、「名誉と共にくれてやる」と言って足でゲイ・ボルグを詩人に投げ渡しました。

ゲイ・ボルグは詩人を貫き倒しましたが、そのまま敵のメイヴ軍に奪われてしまいます。

メイヴ軍の戦士ルガイドがゲイ・ボルグを拾ってクー・フーリンに投げ返すと、ゲイ・ボルグはクー・フーリンの腹に刺さって内臓をこぼれさせました

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ルガイドは正しい投げ方(足の指で蹴り出す)ではなかったため、棘が出ずにクー・フーリンは即死には至りませんでした
(詳しくは「ゲイ・ボルグの能力」参照)

誇り高い戦士クー・フーリンは倒れることを嫌い、溢れた内臓を抱えながら石柱に自らを縛り付け、立ったまま亡くなるという伝説的な最期を遂げました。

ゲイ・ボルグが現代作品に与える影響

現代作品に与える影響

日本においてゲイ・ボルグの知名度は神話の武器の中でのトップクラスです。

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とくに現代ゲームへの影響が大きいです

ゲイ・ボルグが登場するゲーム例

  • Fate/stay nightシリーズ
  • ファイナルファンタジーシリーズ
  • モンスターハンターシリーズ

とくに「Fate/stay nightシリーズ」ではランサー(クー・フーリン)の宝具として登場するゲイ・ボルクは、独自アレンジされた能力で有名です。

Fateの独自能力「因果逆転の呪い」は相手の心臓に命中したという結果を作り上げてから槍を放つという設定ですが、神話のゲイ・ボルグとは全く異なる能力です。

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名前もゲイ・ボルグではなく「ゲイ・ボル」となっています

そのほかのRPGでもゲイ・ボルグの能力は「必中」「即死」「防御無視」など、誇張した能力が多いです。

神話原典で語られるゲイ・ボルグとの違いを知ることで、より深く神話もゲーム世界も楽しめます。

参考文献

  • 佐藤俊之(監修), 造事務所(編著), 『伝説の「武器・防具」が良くわかる本』, PHP文庫, 2007年
  • 佐藤俊之とF.E.A.R(著), 『聖剣伝説』, 新紀元社, 1997年
  • 島崎普(著), 『眠れなくなるほど面白い 図解 ギリシャ神話』, 日本文芸社, 2020年
  • 朝里樹(監修), 『大迫力!NEO伝説の武器・刀剣・防具大図鑑』, 株式会社西東社, 2022年
  • 歴史雑学研究倶楽部(編者), 『ヴィジュアル版 世界の神々と神話事典』, ワン・パリッシング, 2023年
  • ミスペディア編集者(著), 『面白いほどよくわかる伝説の武器:武器への理解が深まる独自考察本』, 2023年
  • 金光仁三郎(監修), 『知っておきたい 伝説の武器・防具・刀剣』, 株式会社西東社, 2010年
  • 日下晃(著), 『ギリシャ神話の教科書シリーズ壮大なるギリシャ神話の世界』, 2023年
  • かみゆ歴史編集部(編), 『マンガ 面白いほどよくわかる!ギリシャ神話』, 株式会社西東社, 2019年
  • 日下晃(著), 『北欧神話の武器や道具』, 2023年
  • 『ゼロからわかる北欧神話』, 生活情報ブックス, 2025年

この記事を書いた人

子供の頃から神話が大好きな主婦です。子供が神話に興味を持ち始めたので、備忘録がてら、いっそ神話武器辞典を作ろう!とサイトを立ち上げました。

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