【ロンゴミニアド】アーサー王伝説アーサー王の武器

【ロンゴミニアド】アーサー王伝説アーサー王の武器
ロンゴミニアドを持ったアーサー王
名称ロンゴミニアド
神話体系アーサー王伝説
所有者アーサー王
(アーサー・ペンドラゴン)
製作者不明
形状穂幅の広い長槍
主な能力敵の鎧や盾を容易に貫通する破壊力
ロンゴミニアドデータベース

ロンゴミニアドはアーサー王伝説に出てくるアーサー王の武器です。

まい

アーサー王の武器といえば聖剣エクスカリバーが有名ですが、彼が騎馬戦において愛用し、人生最後の戦いで振るった「聖槍ロンゴミニアド」をご存知でしょうか?

ウェールズ語で「絶つもの」「殺すもの」を意味するロンゴミニアドは、裏切り者モードレッドの心臓を貫き、アーサー王伝説に幕を引いた歴史的な武器です。

現代では「世界の果てに立つ光の塔」としても描かれるこの聖槍の、神話における真実と能力に迫ります。

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ロンゴミニアド誕生秘話

ロンゴミニアドイメージ

聖剣エクスカリバーが「湖の乙女」から授けられたのに対し、聖槍ロンゴミニアドがどこから来たのか、神話では語られていません

父王ウーサー・ペンドラゴンの遺産だったのか、それとも異界からもたらされたのか。

まい

アーサーはウーサーが亡くなるまで自分が息子であったことを知らなかったので、父王から受け継いだ可能性は低いかもしれません

アーサーの出自

アーサーの父はブリテンの王ウーサー・ペンドラゴンですが、母は部下であるコーンウォール公の妻、イグレインでした。

ウーサー王は人妻であるイグレインに激しく恋をしてしまい、は魔術師マーリンに頼み込み、「一夜の逢瀬(おうせ)」の手引きをさせます。

マーリンは生まれた子供を貰い受けることを条件に、魔法でウーサーを「イグレインの夫(コーンウォール公)」の姿に変身させました。

夫が帰ってきたと思ったイグレインはウーサーと寝てしまい、この結果身ごもったのがアーサーでした。

ウーサーとイグレインは後に正式に再婚しますが、生まれたばかりのアーサーは約束通りマーリンに引き渡されました。

331 The Romance of King Arthur.(1917年)
画像出典:Wikimedia commons
331 The Romance of King Arthur.(1917年)

マーリンは、赤ん坊を忠実な騎士エクター卿に預け、「自分の息子として育てるように」と命じました。

これによりアーサーは自分が王の子であることを知らず、エクター卿の息子(ケイの義弟)として一介の騎士見習いとして育つことになったのです。

確かなことは、ロンゴミニアドが「ウェールズ語の名前」であることです。

洗練された騎士道物語の時代よりもずっと前のアーサーがまだ荒々しいケルトの戦士だった頃から、ロンゴミニアドは彼と共にあり、無数の敵を貫いてきた「相棒」だったのでしょう。

アーサーは若き日から多くの戦いを経験していたので、 「選定の剣」で王になった後、自らの体格や戦い方に合う最強の騎兵槍を当時の最高の鍛冶師に作らせた(あるいは戦利品として手に入れた)と考えるのも、リアリティのある解釈です。

ちなみにアーサー王伝説の基礎を作ったジェフリー・オブ・モンマスの『ブリタニア列王史』では、「ロン(Ron)」という短い名前で登場します。

ここでは「グリフィンが描かれた盾(プリドゥエン)」や「カリバーン」と並び、アーサー王の標準装備として紹介されています。

ロンゴミニアドの能力

ロンゴミニアドイメージ

神話におけるロンゴミニアドはビームを放つ魔法の杖ではなく、「物理的に極めて強力な騎兵槍(ランス)」として描かれます。

まい

ロンゴミニアドはアーサー王の主要な武器であったと言われています

ロンゴミニアドの特徴

  • 穂先が広く、敵の鎧や盾を容易に貫通する破壊力を持つ
  • 「突撃用」の最強兵器で、一度の戦闘で数百人の敵を倒したという記述もある
  • 神話的な怪物(魔猪トゥルフ・トゥルウィスなど)と戦う際にも使用された

ロンゴミニアドは、単なる鉄の槍を超えた霊力を秘めていたと考えられています。

ロンゴミニアドはアーサー王の「三大兵装」のひとつだった

三大兵装のアーサー王

ウェールズの伝承(『キルフッフとオルウェン』など)において、アーサー王の装備は以下の3つがセットで語られます。

スクロールできます
名前分類役割能力
エクスカリバーイメージ
カレドヴルフ
(エクスカリバー)
攻撃・王権圧倒的な光の火力
王の象徴
ロンゴミニアドイメージ
ロンゴミニアド
騎乗・決戦リーチと貫通力
息子を討った
カルンウェナンイメージ
カルンウェナン
短剣隠密・奇襲姿を消す魔法
魔女を狩る
アーサー王の「三大兵装」

主要なロンゴミニアドだけでなく、「光」のエクスカリバー、「影」のカルンウェナン

光と影の両方を持っていたからこそ、アーサー王は清廉潔白なだけでなく、現実的な脅威にも対処できる「最強の王」であり続けられたのかもしれません。

ロンゴミニアドの所有者はアーサー・ペンドラゴン

Charles Ernest Butler - King Arthur.(1903年)
画像出典:Wikimedia commons
Charles Ernest Butler – King Arthur.(1903年)

ロンゴミニアドの所有者はアーサー王です。

アーサー王の名前は「アーサー・ペンドラゴン」で、ブリテンの王で円卓の騎士の主でした。

聖剣エクスカリバーは「王の象徴」として腰に帯びていましたが、戦場でのアーサー王は優れた「騎兵」であり、初撃においてはロンゴミニアドを主力武器としていました。

アーサー王は「円卓の騎士」と呼ばれる最強の騎士団を率い、ロマンと悲劇に満ちた生涯を送りました。

アーサー王は実在した?

Arth tapestry2.(1385年)
画像出典:Wikimedia commons
Arth tapestry2.(1385年)

「アーサー王は本当にいたのですか?」という疑問は、古くから議論されています。

現在の歴史学的な結論は、「モデルになった人物はいるが、魔法を使う伝説の王そのものはフィクション」とされています。

中世の物語に登場するような「輝くプレートアーマーを着て、魔法の剣を持ち、キャメロット城に住んでいた王」は、後世の詩人たちが創作したフィクションです。

アーサー王伝説のベースになったのは、5世紀〜6世紀頃(ローマ帝国が去った後のブリテン島)に、侵略者であるサクソン人と戦った「実在の軍事指導者」だと考えられています。

彼は「王(King)」ではなく、「将軍」や「隊長」に近い存在だったようですが、その英雄的な活躍が数百年かけて語り継がれるうちに、尾ひれがついて「伝説の騎士王」へと変化していったようです。

ロンゴミニアドにまつわる神話

Battle Between King Arthur and Sir Mordred - William Hatherell.(19世紀)
画像出典:Wikimedia commons
Battle Between King Arthur and Sir Mordred – William Hatherell.(19世紀)

ロンゴミニアドが伝説となったのは、アーサー王の人生の幕引きとなる「カムランの戦い」での一撃です。

アーサー王の治世の最後、円卓の騎士が分裂して息子であるモードレッドが反乱(カムランの戦い)を起こします。

凄惨な戦いの末、戦場に立っているのはアーサー王とモードレッド、そして数名の騎士だけとなりました。

裏切り者モードレッドの姿を見つけたアーサー王は、ロンゴミニアドを両手で構えて制止する部下を振り切ってモードレッドに向かって突撃しました。

モードレッドも剣を構えて応戦しますが、ロンゴミニアドのリーチと破壊力は圧倒的でした。

ロンゴミニアドの穂先はモードレッドの盾を突き破って鎧を貫通し、モードレッドの体(胴体)を串刺しにしました。

Boys King Arthur - N. C. Wyeth - p306.(1922年)
画像出典:Wikimedia commons
Boys King Arthur – N. C. Wyeth – p306.(1922年)

しかし、槍で貫かれたモードレッドは死に物狂いの執念を見せます。

モードレッドは自らの体を槍の奥へと押し込みながら前進し、間合いを詰めてアーサー王の頭部に魔剣クラレントを振り下ろしました。

この一撃が致命傷となり、アーサー王は勝利と引き換えに倒れたのです。

まい

ロンゴミニアドは、「敵を討ち取ったが、王の命も守れなかった(相討ちを招いた)」という悲劇的な最期の武器となりました

ロンゴミニアドが現代作品に与える影響

現代作品に与える影響

ロンゴミニアドは現代の日本において、独自かつ壮大な解釈がなされ、エクスカリバーに次ぐ人気を獲得しています。

まい

とくに『Fate』シリーズの影響で、神話とは異なる能力を持つと解釈されています

ロンゴミニアドが現代作品に与える影響

「最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)」として登場

「最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)」イメージ

ロンゴミニアドは『Fate/Grand Order』などで、「最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)」として登場して人気を博しています。

Fateシリーズでは、ロンゴミニアドは単なる武器ではなく「世界の表層(現実)を繋ぎ止めている光の塔(アンカー)」の影であるという設定が追加されました。

「神霊級の威力を持つ」「持っていると人間性を失い神霊に近づく」といった設定により、エクスカリバーとは別ベクトルの「人知を超えた兵器」としての地位を確立しています。

「世界の果てに立つ塔」のイメージ

「世界の果てに立つ塔」のイメージ

現代のファンタジー作品では「世界の果てに立つ塔」として描かれることが多いロンゴミニアド。

しかし、神話の原典ではあくまで「実戦的な騎兵槍」です。

なぜロンゴミニアドは「塔」になったのでしょうか?

おそらく、ケルト神話の異界への入り口や、アーサー王が死後に向かったアヴァロン(異界)との関連から、「世界を繋ぐ柱」というイメージが現代的に膨らませられたのではないでしょうか。

「物理で息子を串刺しにした槍」が、現代では「世界を安定させる光の塔」になる…この進化こそが、アーサー王伝説が今も生き続けている証拠かもしれません。

アーサー王のランサー化

Boys King Arthur - N. C. Wyeth - p306.(1922年)
画像出典:Wikimedia commons
Boys King Arthur – N. C. Wyeth – p306.(1922年)

ロンゴミニアドによって、ゲームなどでアーサー王が「セイバー(剣士)」だけでなく「ランサー(槍兵)」として登場する根拠となっています。

まい

「アーサー王の武器=エクスカリバー」のイメージが強いですが、ロンゴミニアドによってアーサー王の属性イメージが追加されました

参考文献

  • 佐藤俊之(監修), 造事務所(編著), 『伝説の「武器・防具」が良くわかる本』, PHP文庫, 2007年
  • 佐藤俊之とF.E.A.R(著), 『聖剣伝説』, 新紀元社, 1997年
  • 島崎普(著), 『眠れなくなるほど面白い 図解 ギリシャ神話』, 日本文芸社, 2020年
  • 朝里樹(監修), 『大迫力!NEO伝説の武器・刀剣・防具大図鑑』, 株式会社西東社, 2022年
  • 歴史雑学研究倶楽部(編者), 『ヴィジュアル版 世界の神々と神話事典』, ワン・パリッシング, 2023年
  • ミスペディア編集者(著), 『面白いほどよくわかる伝説の武器:武器への理解が深まる独自考察本』, 2023年
  • 金光仁三郎(監修), 『知っておきたい 伝説の武器・防具・刀剣』, 株式会社西東社, 2010年
  • 日下晃(著), 『ギリシャ神話の教科書シリーズ壮大なるギリシャ神話の世界』, 2023年
  • かみゆ歴史編集部(編), 『マンガ 面白いほどよくわかる!ギリシャ神話』, 株式会社西東社, 2019年
  • 日下晃(著), 『北欧神話の武器や道具』, 2023年
  • 『ゼロからわかる北欧神話』, 生活情報ブックス, 2025年
  • 森瀬繚(著), 『いちばん詳しい「北欧神話」がわかる事典』, SBクリエイティブ株式会社, 2014年
  • ミスペディア編集者(著), 『面白いほどよくわかるケルト神話:スラスラ読めて一気にわかる神々の物語』, 2020年
  • 森瀬繚(著), 『いちばん詳しい「ケルト神話」がわかる事典』, SBクリエイティブ株式会社, 2014年
  • 宇城卓秀(編集長)・浅野智明(編集), 『伝説の武器・防具イラスト大辞典』, 株式会社宝島社, 2011年

この記事を書いた人

子供の頃から神話が大好きな主婦です。子供が神話に興味を持ち始めたので、備忘録がてら、いっそ神話武器辞典を作ろう!とサイトを立ち上げました。

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