
| 名称 | シャマシュの鋸(シャッシャル) |
|---|---|
| 神話体系 | メソポタミア神話(バビロニア・シュメール) |
| 所有者 | 太陽と正義の神シャマシュ シュメール名:ウトゥ |
| 製作者 | なし 太陽神の権能(概念)そのものが具現化した姿 |
| 形状 | 刃がギザギザになった半月状、または真っ直ぐなノコギリ |
| 主な能力 | 東の山(地平線)を切り裂いて夜明けを呼ぶ 嘘や偽り(闇)を切り裂いて真実を暴く |
メソポタミア神話において英雄王ギルガメシュを庇護し、森の番人フンババ討伐の際に「13の暴風」を吹かせてアシストした太陽神シャマシュ。
シャマシュは絶対的な「光」と「正義」を司るこの偉大な神です。
メソポタミアのレリーフでは、シャマシュが鋸の刃のような光線を放ちながら地平線から昇る姿が描かれており、この光こそがシャマシュの鋸(シャッシャル)と考えられています。
まいシャマシュの武器は光り輝く聖剣でも、炎の弓でもなく「ギザギザの刃を持つ、黄金(または青銅)の鋸(ノコギリ)」でした
なぜ、最高位の太陽神のシンボルが「ノコギリ」なのでしょうか?
そこには大自然の雄大さと、悪を絶対に許さない「裁き」の厳しさが込められていました。
古代メソポタミアの法と秩序を象徴する、シャマシュの鋸(シャッシャル)の正体に迫ります。
シャマシュの鋸(シャッシャル)誕生秘話


Landscape of Shadegan.
シャマシュの鋸は特定の製作者(鍛冶神など)は存在しません。



シャマシュが太陽神として存在するようになった最初から持っていた生得の神器、つまり「太陽神の権能(概念)そのものが具現化した姿」なのです
そもそもなぜノコギリという概念になったかというと、理由は古代メソポタミアの人々が毎日見ていた「日の出(夜明け)の風景」にあります。
メソポタミア(現在のイラク周辺)の東側には、高く険しいザグロス山脈がそびえ立っています。
毎朝、太陽はこの分厚い岩山を乗り越えて昇ってくるわけですが、古代の人々はこれを「太陽神シャマシュが、毎朝自分の手で山脈(岩)をノコギリで切り裂くように強引に通り道を作って出てきている!」と想像したのです。
実際に、出土する多くの円筒印章(ハンコ)には山と山の間から顔を出し、手に持ったノコギリで岩を切り裂いているようなシャマシュの姿が描かれています。
つまりシャマシュの鋸(シャッシャル)は、「夜の闇とそびえ立つ山脈を物理的に切り裂き、世界に光(夜明け)をもたらすための大道具」として誕生したのです。
シャマシュの鋸(シャッシャル)の能力


シャマシュの鋸(シャッシャル)の能力は、ただ山を切り裂くだけではなく、もう一つ極めて重要な正義の執行という「神の権能」を帯びていました。



太陽が昇ると世界が明るくなるように、シャマシュの鋸は 真実を暴き出す神の光を表していたといわれています
嘘や偽りを切り裂く「裁きの刃」
シャマシュは太陽神であると同時に、すべてを上空から見通す「正義と裁判の神」でもありました。



かの有名な『ハンムラビ法典』は、シャマシュ神からハンムラビ王に授けられたものとされています
シャマシュの持つノコギリのギザギザの刃は、「どんなに巧妙に隠された嘘や罪(闇)であっても、容赦なく切り裂いて真実(光)を白日の下に晒す」という、厳格な法の執行を象徴しています。
悪人にとって、これほど恐ろしい「尋問の道具」はありません。
冥界(地下世界)への入り口を開く
シャマシュの鋸(シャッシャル)は、冥界(地下世界)への入り口を開く能力もあります。
太陽は夕方になると西の果てに沈み、夜の間は「地下(冥界)」を旅して、また翌朝に東から昇ると考えられていました。
シャマシュはこのノコギリを使って、地上と冥界を隔てる固い扉(または大地)を切り開いて進んでいたとされています。
彼は生者の世界だけでなく、死者の世界でも裁判長として死者の魂を裁く、恐るべきワーカホリック(仕事人間)な神様でした。



太陽神が夜間に冥界を通過するという世界観は、メソポタミア宇宙観の基本構造の一つです
メソポタミア神話の太陽神の象徴は格付けすると何位にランクインするのでしょうか?
気になる順位はメソポタミア神話の最強武器ランキングの記事で発表していますので、合わせてチェックしてみてくださいね。
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シャマシュの鋸(シャッシャル)の所有者


Dictionnaire de la Bible – F. Vigouroux – Tome I 237. — Dieu Šamšou.
このノコギリの絶対的な所有者であるシャマシュは、メソポタミアにおいて最も人間に身近で、最も頼りになる神様の一柱です。
シュメール語では ウートゥ(Utu) と呼ばれ、シャマシュはメソポタミア世界で広く崇拝されました。
シャマシュは他の神々(エンリルなど)が「人間がうるさいから洪水で滅ぼそう」と理不尽な理由でキレる中、常に「法と秩序(ルール)」を重んじ、正しい行いをする者を徹底的に守り抜くという、極めてまともで正義感の強い性格をしていました。



シャマシュがギルガメシュを特別に加護したのも、ギルガメシュが(最初は暴君だったとはいえ)ウルクの正当な王であり、神の法に則って生きていたからでした
シャマシュはエンキドゥの死の際の「神の弁護」をした


森の番人フンババと天の牡牛(グガランナ)を殺した罪で、最高神エンリルたちが「ギルガメシュとエンキドゥのどちらかが死刑だ!」と神々の会議でブチギレた際、唯一、二人のために必死に弁護してくれたのがシャマシュでした。
シャマシュは「彼らがフンババや牡牛を殺したのは、私が加護し、命じたからです!彼らに罪はありません!」と、正義の神として真っ向からエンリルに反論してくれたのです。
結果的にエンキドゥの死は避けられませんでしたが、シャマシュのこの「嘘偽りを許さず、正しい者を弁護する姿勢(ノコギリの精神)」は、冷酷なメソポタミアの神々の中で一際輝く優しさを持っています。
シャマシュの鋸(シャッシャル)にまつわる神話


シャマシュの鋸(シャッシャル)にまつわる神話をまとめました。



実はシャマシュがノコギリで敵(怪物)と戦った神話は一つも存在しません
毎朝「山(マシュ山)」を切り裂く


Cylinder seal Shamash Louvre AO9132.
シャマシュがノコギリを使う最大の「神話的イベント」は、モンスター討伐ではなく「毎朝の出勤(日の出)」です。
『ギルガメシュ叙事詩』にも登場する、世界の東の果てにある双子山「マシュ山」。
シャマシュは毎朝、冥界から地上へ上がるために、この分厚い岩山をノコギリで自力でギコギコと切り開いて、太陽の通り道を作って姿を現します。



古代の円筒印章に、山をノコギリで切っている姿が大量に残されています
つまり、彼にとってノコギリは「対モンスター用の武器」ではなく、「太陽を昇らせるための大道具(土木作業ツール)」として毎日使われているのです。
森の番人フンババとの戦い


シャマシュが自身のノコギリを直接フンババに振り下ろしたわけではありません。
しかし、シャマシュがギルガメシュを助けるために「13の暴風」を放ったのは、彼が「森の暗闇(未知の恐怖=フンババ)」を、自身の光(ノコギリ)で切り開こうとしたことを意味しています。
未開の森は、古代の人々にとって「法が及ばない無法地帯(闇)」でした。
そこにギルガメシュという「人間の王(文明・法)」を送り込み、シャマシュが背後から加護を与えたのは、無法地帯を切り裂いて正義の光を当てるという、シャマシュの神格そのものを表すエピソードなのです。



森の番人フンババについて詳しくは以下の記事でまとめていますので、併せてチェックしてみて下さい
▶︎【森の番人フンババ(フワワ)】メソポタミア神話の恐るべき怪物(ギルガメシュ最初の試練)


シャマシュの鋸(シャッシャル)が現代作品に与える影響


シャマシュの鋸(シャッシャル)は直接的な武器として登場することは少ないものの、正義の執行武器などの重要なモチーフの起源となっています。
シャマシュの鋸(シャッシャル)が現代作品に与える影響
「ノコギリ・チェーンソー」と「処刑人」の結びつき


シャマシュの鋸(シャッシャル)は、「ノコギリ・チェーンソー」と「処刑人」の結びつきの原型的イメージの一つと考えることもできます。
現代のダークファンタジーやゲームにおいて、「ノコギリ状の武器(肉厚の巨大ノコギリやチェーンソー)」を持つキャラクターは、しばしば「異端審問官」や「処刑人」など、「狂気的なまでに法と正義を執行する存在」として描かれます。



『Bloodborne』のノコギリ鉈や、『チェンソーマン』などが有名ですね
相手の肉を「斬る」のではなく、ガリガリと「削り裂く」という残虐な形状の武器が、皮肉にも「正義・裁き・断罪」のシンボルとして扱われるのは、このシャマシュの鋸という古代の原型(アーキタイプ)のイメージが根底に流れているからかもしれません。
「光=物理ダメージ」という概念


シャマシュの鋸(シャッシャル)は、「光=物理ダメージ」という概念にも繋がっています。
太陽神の力が「熱」や「ビーム」ではなく、物理的に岩をガリガリ削る「ノコギリ」だったという発想。
これはRPGにおいて「ホーリー」などの神聖魔法(光属性)が、実は防御力無視の物理ダメージ判定だったりする、あの独特な力強さのルーツとも言えるロマンがあります。



神話武器としてのシャマシュの鋸は、戦闘用の剣や槍とは異なり、宇宙の秩序と神の裁きを表す象徴的な武器として語り継がれているのです
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